【大事なお知らせ】

 ええ、今回については迷宮クソたわけの本編でも外伝でもなくシンプルな告知です!

 なぜこんなところに書くのかって?

 そりゃ、こっちも後がない上にこの場所が一番読者さんに届くからです。


 知っている人は知っている。知らない人は知らないでしょうが、『迷宮クソたわけ』という本作は私のデビュー作であり、同時に商業的失敗によりあっという間に一巻打ち切りを食らった作品でもあります。

 普通、そういう作品は忘れ去られて、作者も投げ出したりするのでしょうが様々な方のご協力を得ているうちにやめるタイミングを失ったまま早七年。このタイミングでまさかリブートしようとは。

 KADOKAWAさんの出版権をそろそろ引き上げて、自主出版でもしようと思っていた矢先。『はぐれ者共、銃を撃て』を出版させていただいたダンガン文庫さまからリブートのお話を伺い飛びついてしまいました。

 当然ここには三者、あるいは四者の大人な調整があり問題なく進められることになったのでこうやってここにお知らせを書いているわけです。

 ダンガン文庫様といえば、あれですよ。クレバーなスタンスで現在のところ電子専売を貫いている硬派系ライトノベルレーベルを展開しておられますが、そういったわけで当然『迷宮クソたわけ』につきましても電子専売でのスタートとなります。

 ご要望や人生の節目など重なりましたら、これはもしかすると紙の本とか出ないかな、とか思ってもいるんですが、まあその辺は検討中とのことです。

 クレバーなスタンスで電子専売を貫くダンガン文庫様が紙の本を検討してくれるということで、これはそれだけ前のめりになってくださっているわけですね。

 緊張と嬉しさを感じつつ、パソコンの前に座り続けております。


 商業的なリブートということで真面目にお話をいたしますと、イラストレーターに関しましてはKADOKAWAさんとは違う方になり、新たなデザインとなります。

 迷宮クソたわけの様に出版即打ち切りの大ゴケをしておきながらこんなに大勢の漫画家さんやイラストレーターさんのお力をいただける作品はそうないですよ。

 というわけでどんなデザインでコートンおじさんのイラストが起こされるのか今か ら楽しみで仕方ありません。

 向後万端うまくいって、私がさぼらなければ7月の内にはリリース出来るとのことです。

 前回は惨憺たる苦汁を舐めるという貴重な経験をさせて頂きましたので、今回こそうまくやりたい。結果を出したい!

 アニメ化もしたいしグッズも欲しい。

 そう渇望して止みませんので、迷宮クソたわけ読者の皆様は是非とも宣伝、応援をよろしくお願いします。

 また、同じダンガン文庫さまから『はぐれ者共、銃を撃て』を出しておりまして、こちらも二巻を出版の為営為作業中でございます。

 ぜひとも皆さま、こちらも未読の場合はチェックしてください。

 だって、あれですよ。迷宮クソたわけに出て来たアスロとかジプシーとかいる世界ですよ。

 迷宮クソたわけが好きな人には刺さると思います。

 なお、迷宮クソたわけの再出版に際しては企画もいろいろと動いていると聞いていますので、乞うご期待!

 続報は旧Twitterや近況ノートで告知いたしますので、ぜひともこちらもフォローしてください。


追伸 私事ながらこの春より仕事も家庭も生活環境も全てをゼロベースからやり直すことにしたのですが、ようやく落ち着いてきました。五月らしくない高温が報じられるこの頃ですが、皆さまお体ご自愛下さい。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


迷宮クソたわけ 短編


 友人同士


 ルガムは冒険者を引退して随分経つことを、不意に思う。

 天候に恵まれ、中身を干し終わった洗濯籠を片手に太陽を見上げた時だ。

 暗闇に沈んだあの瞬間、耐えがたい傷を心に負い、それ以来は巣穴に引き籠る生活を選んだのだった。

 とはいえ、大勢が集う一家を率いる女傑である。相変わらず怪力であるし、身のこなしは俊敏だ。

 疲れを知らず働き、集う者に指示を出していく。

 それは、あるいは癒えたとはいえない傷から必死に目を逸らすための作業であるのかもしれない。

 今でもふと、死に囚われた瞬間が全身に冷や汗を浮かべることがある。

 ブラントの引き起こした混沌により、燃料として壊してしまった机も今では作り直して元の場所に据えてある。サイズは往時のそれと比べてずっと小さいが。

 一時期は大きな机を幾つ並べても食事ごとに人が集まって来て一杯に埋まったが、今ではそんなに集まらない。

 子供たちの多くは成長して出て行ったし、倉庫の人足に食事を提供していたガルダ商会もすっかり寂れた。

 今、食事時にやってくるのはルガムとサミを除けばステアの教会に寝泊りする連中と未だに行き場を見つけられない北方難民たちだ。

 ルガムはゆっくりと椅子に腰を掛ける。

 かつて夫が指定席としていた椅子の隣だ。

 指定の権限は甚だ弱く、誰かが先に座っていれば一瞬で諦めてしまう男だったけど。

 

「よ、黄昏てんな」


 と、声が掛けられた。

 振り返るまでもない。声の主はかつてパーティを組んでいた盗賊、パラゴだ。

 

「黄昏ね。そうかも」


 アタシの太陽は沈んじゃったから。

 声を出さずにルガムは思う。

 夫が迷宮に沈んだのはステアの元に身を寄せる小雨から聞いたのだった。

 

「元気出せって、ほら。土産」


 パラゴは布袋を机の上にドサッと置く。

 中には沢山の果物が入っており、青く香っていた。

 パラゴは時々やって来てはこうやって土産を置いていく。

 それはステアやルガム、あるいはいなくなった男への友情からでもあるだろうが、同時に。


「まだあの娘は諦めないわけ?」


 ルガムが揶揄う様に言った。

 パラゴは疲れた笑みで首を振る。

 親友の命を取りこぼし、その後も自ら命を掛けながら稼いだ大金を注ぎ込んだ女とパラゴは一緒に暮らしていた。

 しかし、互いの思想は交わらず、パラゴはその女から逃げ続けてもいるのだ。


「だからさ、あくまで仲間じゃん。それが責任を取るとかなんとか思いつめやがって。責任取るっていうんなら金を返してくれってんだよ」


 パラゴは袋から小さな果物を一つ取り出して齧りつく。

 特有の爽やかで酸っぱい匂いがルガムの鼻にも届いた。


「アタシたちの結婚よりはずっとマシだと思うけどね」


 ルガムの言葉にパラゴが噴き出す。

 ルガムがプロポーズを受けた現場を目撃した一人なのだ。

 

「確かにありゃ酷かった。悪い冗談だったが、おかげで俺たちはヘイモス以外、今日もバカ話をしていられる」


 今よりもずっと無力だった自分たち。

 ある瞬間で永遠に足を止めてしまった仲間。

 自分はどうだろうとルガムは思う。

 もはや迷宮に足を向ける気にもならない。

 別れも告げず、ずっと遠くまで歩き去ってしまった夫に追いつくことは永遠にないのだろう。


「なんにせよ、人間を辞めない理由を用意できるならいいじゃない。アタシはアイツの理由にはなれなかったけど」


 ステアに教会があり、ルガムには家族と娘がいる。

 シグは冒険者組合の看板にされつつあり、ギーにはメリアと祖国がある。

 パラゴはそういった意味で、今まで地上への執着を持たなかった。

 この機に家族でも作って迷宮と決別した方がいい。

 言葉に出さないまま、ルガムは思った。

 パラゴは果物を食べ終わると席を立つ。


「また黄昏てるぞ。その明るさで大勢を救って来たんだろ。もうちょっと頑張れよ」


「アタシだって無理して笑ってたんだよ」


 ムッとしてルガムが言い返した。が、パラゴもすぐに言葉を重ねる。


「知ってるよ。俺たちは誰もかれも、悩みながら生きてるんだ。笑いたくなくても笑って、戦いたくないのに戦って、迷い迷い。まったく俺たちは地上にいたって根っからの迷宮冒険者だな」


 そうしてパラゴは立ち去って行った。

 残されたルガムは転がる果物を一つ拾い上げ、愛する夫の現在の姿を思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る