まるで記録映像の中にふと足を踏み入れてしまったかのような錯覚──
大田さんの『私の創作遍歴』を拝読するたびに、そうした感覚に包まれます。単なる懐古でも、記憶の断片でもない、まるで当時の空気や音、匂いまでもが立ちのぼるような臨場感。思い出を“辿っている”というよりも、むしろ“宿している”かのような言葉の運びに、深く心を打たれました。
例えば、小学三年生のときに出会った『パーマン』との記憶。児童館での読書体験、アニメ放送への胸の高鳴り、そしてバードマンへの親子のような投影──。それはただの「好きだった作品」ではなく、子ども時代の感情と価値観が濃密に結びついた、創作の原点そのもののように感じられます。
特に引っ越し前夜、弟さんの枕元からそっと『パーマン』第5巻を手に取り、眠れぬまま読みふけったくだりは、まるで短編映画のワンシーンのようでした。「今しかない」と信じて夢中になる、子どもならではの衝動と没入がそこにはあり、それが読む側の胸にも熱く伝わってくるのです。
これは単なる“昔話”ではなく、ひとりの作家がどのように物語と人生を重ねてきたのかを辿る、貴重な記憶のアーカイブです。