起きたら高校一年生。これってマジ?

マリブコーク

第1章

第1話 異世界転生ではなく過去回帰 0

目がぱちっと開く。


「えっ」



「朝よ!!!!」


ガチャっと開くドアを開けるのは母親。


「えっ!?!?」


「なんかね!

起きとるんじゃったら返事しんさいや!!!!」


「あ、うん、起きた」


「ご飯できとるよ!」


あ、これ実家や。

しかも部屋の配置とか、多分高1。

自分の名前もちゃんと思い出せる。

俺は東田慶介

母は亜希子。

父は丈治。

うん問題ない。




我が家は無駄に広い。

本州の端っこらへんの片田舎にあるためということもあるが、それでもでかい。

なので、一階のリビングから、俺の部屋まで声を届かせるのは至難の業である。


「まぁ、高校あるんなら行かんにゃあいけんじゃろ」


のっそりとベッドから起き出して、身支度を整える。


長い廊下を歩いて洗面台に向かい、顔を洗い、コンタクトをする。

髪を濡らして乾かしてワックスをつける。

社会人時代の手早く身支度を済ませるというスキルはここでも役に立つ。


中に適当なシャツを着て、学ランを羽織り通学カバンを持って一階に降りる。


「ほら!ごはんできとる…よ?」


「おぉ?」


たまたま父が家にいた。

おぉ、記憶にある最新の父よりだいぶ若い。

この頃は多分広島で仕事をしてたはずやけど、そうか。

今日は月曜か。


父は金曜の夜家に帰ってきて土日を過ごし、月曜の朝広島に帰るという半単身赴任生活をしている。

というか、していた。


「あんたどうしたん?」


「ええじゃ。色気付いてから」

父は昔からおしゃれだった。

俺が身だしなみを整えたことを嬉しそうにしている。

「は?あぁ、おぉん」


そうだった。

中学から上がってすぐの、この頃は割と身だしなみの方向性が間違っていた頃だった。

みんなもあるよね?

そんな時期。


俺は未来では割とオシャレな会社で仕事をしていたのでその時の身だしなみの意識にまだ引きずられているっぽい。



「まぁまた今度話すわ」


両親の頭の上にはてなマークがいくつか浮かんだ気がした。




いつもより幾分かかっこよくなって通学した高校。


めざとい親友は、

「お!いいねぇ」

なんて茶化してきたりもしたが、概ね大過なく。



席について今日の時間割を見てみると朝から数学1。

多分一度目の高校時代だったら最悪やんけとか思ってたと思うけど今なら特に何も思わない。

あ、そう。

くらいのテンションである。


鞄から筆箱を出そうと引っ張り出すと頭を抱える。


出てきたのはとんでもなく大量のキーホルダーがついた筆箱。

「完全に黒歴史じゃねぇか」


やり直しというか、黒歴史をトレースさせられている感すらある。


一つ一つキーホルダーを外し、身軽になった筆箱に一通り満足をするとノートを取り出し教科書を開ける。


「あれ?

昔より格段に理解できる」


まぁ一回やってきたことを繰り返しているため、復習をやってるというのもあると思うが、大学時代に割と本気で塾講師をやっていたというのもあって、割と覚えてるし、かなり理解できる。


「こりゃ、目指してみるか。東大」

実のところ、

現役時代から「3年くらい浪人したら」とか、「4年くらい勉強したら東大いけると思う」というのは冗談で吹聴していた。


いつもより少しばかり勉強がはかどり、なんの変哲もなく過ごした午前中。


強いて言うなら昼が近くなるにつれて、たんだんと周りの目がやばいやつを見るような目に変わってきたところくらいか。

なんでだろうと考えてみると思い当たる節が一つ。



一度目の人生の私はお調子者だった。

もう、根っからお調子者。

おちゃらけていて、芯がない。

授業中に騒ぐし、ちょっかいを出すし、今思えば恥ずかしすぎて仕方がない。


そんな奴がいきなり、しずかに真面目に授業を受け出すものだから教師陣も驚きである。


古典の時間なんかは、一度目の頃散々目の敵にしてくれた教師に褒められた。


「じゃ、じゃあ、今日は真面目な東田。

この一文を品詞分解してみろ」


「えーと、

僧たち、宵、の、徒然、に、いざ、かいもちひ、せ、ん、と、いひ、ける、を、

こ、の、児、心寄せ、に、聞き、けり。

ですかね?」


「おぉ!?

じゃあ助動詞がどれかわかるか?」


「えっと、かいもちひせんの、ん、と、言いけるのける、聞きけりのけりっす」

それを聞いた先生が目頭を抑える。


「もう俺はさぁ。

うれしいよ、ほんとに。

最初はずーっと寝てばっかりで何回も怒ってきたけどさ。

東田変わってくれたんだなって。

先生は本当に嬉しい。

これからも頑張ろうな。

うし。

続き行くぞ」


大人を一度経験したからこそ思うけど、

頑張れよって上からの他人事じゃなくて、頑張ろうなって言えるのと、

無責任に他の生徒に見習えって言わないのはすごいなって思う。

この先生はお互い大人として接してくれてたんだな、俺たちに。



4限が終わっていよいよ昼休み。

母さんのお手製弁当がある昼なんて最高すぎるだろ。

前はしばらく母さんの手料理食べてなかったからなぁ。


「いただきまーす」


「けーすけ!」


「おっ?

おぉ!!!!さやか!!!!」



こいつはさやか。

何故かこの一年間ずっとほぼ隣が前後の席という運命を感じずにはいられない女の子だ。

ちなみに一度目の時は付き合ってて、割とすぐ別れる。

しかし縁は切れずにずーっと友達以上恋人未満みたいな関係だった。



「なんか変わったね!」


「ほーか?

ええけ飯食おうで。

ほら、机こっち持ってこい」


「えぇ!?!?」


「は?」


そういえばこういう風に飯食ったことなかったかもしれん、さやかと。

1回目の時は悪いことしたなとつくづく思う。


「いや、だって、、、」


「別にえかろうが、減るもんでもないのにから」

社会人にもなると一緒にご飯食べたくらいでヒューヒューいうような子供はいない。



「わかった……」

さやかは恥ずかしそうにしながらもかなり嬉しそうである。

前回の高校時代ではかなり不義理なことをしてしまったため、今回の時代では誰に対しても不義理なことをしない様に心がけたい。


「お、けーすけご夫婦でお食事?」


茶化してきたのはケンジ。

すごくいい奴なのだが、もう少しすると問題を起こして学校を辞めてしまう。

こいつは精神的に大人なところがあるのだが、それと同じだけ子供なところがあるやつだった。

変に大人ぶって悪い仲間の罪を被って学校を辞めることになるのだ。

それだけはなんとか回避してやりたいところである。


「はいはい、羨ましいならどうぞお隣へ」


俺のそんなリアクションを目の当たりにして、おっ!と、驚くケンジ。


「なんか大人じゃん。

おい、けーすけが大人になっとるで!」


「お?階段登った?登った?」


ケンジの茶化しに同調してお調子者その2がやってくる。

名を秀次という。


「逆に聞くけどさぁ。お前らはまだなの?」


2人が凍りつく。


「おい、今日けいすけの余裕っぷりが怖いで?」


「俺もよ、なんか怖ぇわ」


「はいはい、お前らもはよ座れ」


「え、俺らはいいよ」


「ほら、ええから。

あと、お前の隣の席で1人で飯食っとる子も連れてこい」


「え、あぁ。うん」


俺は秀次の隣の席の割とおとなしめの女の子も指名して連れて来させる。

ちなみに2人は史実だと付き合う。


あまりの俺の変わりっぷりに彼らは居心地の悪さを感じつつも、5人で飯を食べた。

やっぱり母さんの飯はうまいな。



なんだかんだ話してるうちにみんなの話を聞いていると段々と相談めいたものになり始め、飯が終わる頃には2人とも何故か俺に一目置くというか、尊敬の眼差しを向けるようになっていた。



なんでやねん。



午後の授業でも先生に真面目ぶりを一通りいじられ、つつがなく1日の授業を終えた。


前の席のさやかはずっとうれしそうで、休み時間のたびに声をかけてきた。


「じゃ、おつかれさーん」


ケンジと秀次は光の速さでサッカー部のユニに着替えて我先にと教室を出る。


「じゃ、私も行くね!」


最後まで機嫌が良かったさやかも部活に行った。


「俺はそろそろか」


「けーすけー!」


隣のクラスのみなみが俺を迎えにくる。

一度目の時、俺は中高と吹奏楽部だったのだが、お世辞にも真面目な生徒とは言えなかった。

それが原因で史実ではもうすぐしたら辞めるのだが、

今回はちょっと真面目にやってみるかという決意を胸に部室に向かう。


「おし。いくか」


「うん!!!!」


こいつは元気だけが取り柄のような奴だが、楽器はなかなかうまい。

一回目の人生では音大に進学する。

あと胸がでかい。


よっしゃ。あと2〜3時間か。

頑張りましょう。

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