第26話 終わりの始まり
私達は模擬戦を終わらせ、ギルドにて再び依頼書を眺めた。
絶えない依頼の数々……私達はCランク以上(リアだけBランク)だからモンスターや獣の討伐に行ける。
武器も獲得したし、模擬戦で魔力の使い方も少しは分かった。
私も早く討伐系をやってみたいと思っている。
「これなんかどう?」
リアが一枚の依頼書を指差す。
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依頼 獣・モンスター討伐
推奨ランク Cランク
弱めではありますが、獣・モンスターが大量発生しています。討伐お願いします。
場所 ミノラの林
報酬500ビズ
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なるほど、普通のモンスター討伐だな。
ミノラの林……行ったことある場所だ。
私達がルティアと出会う前……少女救出作戦の依頼を受けるときに通った林である。
その時も獣に襲われた。
スケールがいなければ当時の私では死んでた。
でも、今は違う。
「じゃあ、これしようか」
あっさりと決まった。
模擬戦の成果……試すとしよう。
ミノラの林……
見た目は変わった様子も無く、青々とした木々が美しく茂っている。
「中に入ろう。逸れないように付いてきて」
私達はリアの背中に続いた。やっぱり頼りになる。
…………空気がおいしい。
ギルドのある辺りは正直ちょっと落ち着かないところがある。いろんな人に見られている気がして、研究員がいないかと常に気にしてしまう。
こういうところに来ると落ち着くものだ。
木々の隙間から漏れる木漏れ日が暖かい。
動物の鳴き声も……
しかし……その鳴き声の中に、唸り声が聞こえた。
「獣が近い……注意して!」
「うん!」
そう言った矢先……
「ウガアアアアア!!!」
急に背後が暗くなったと思ったら、すぐ真横から巨大な影……
「リトル!今だ!」
リアの合図とともに、私は杖を構える。
「身に宿る光の結晶よ!その輝きは地より広く、海より広いものとなり、どんなものでも燃やし尽くさん!『シャイニーウェーブ』!」
辺りいっぱいに広がった光の海が、現れた巨大な獣の影を包み込んでいく。
黄色かった光の魔石は白く輝き、熱を持った。その熱は高温の光の海を作り、獣を燃やし尽くした。
「ギャアアアアア!!」
耳が痛くなるぐらいの雄叫びを上げながら、その影は燃え尽き、消え散った。
「やったあ!」
ついに、私は獣を一頭倒すことに成功した。
本当に成長した。使える魔術は少ない。
でもなんだか、十分に感じた。
自分一人の力で大きな獣を一頭仕留められたのだから。
「すごいよ、リトル!」
そう言われて、私はぎこちなく笑った。
「ギャア!ギャア!ギャア!」
次は空から……でかい翼を生やした鳥が姿を現した。
先程倒した獣の雄叫びに釣られたのか、私達を鋭く威嚇するような目で尖った嘴を剥けた。
体長は二メートルぐらいありそうである。
「リア!お願い!」
空からの襲来。
スケールやルティアは遠距離攻撃ができない。
私はできるものの、さっき魔力を使ったばかりである。
「任せて!」
次はリアが杖を構えた。
「『ファイアーアロー!』」
やはり無詠唱………リアはすごいな……
しかし……そのその矢はすり抜けた。
掠ってすらいない。
「ダメか……」
リアは肩を落とす。
その隙を見て、私も攻撃体制に入った。
「あまねく光の結晶をここに宿し、光の玉を顕現せよ!『シャイニーボール』!」
これは模擬戦でも使った技だ。
しかし、これも当たらない。
「『ファイアーボール』!」
次はリアがファイアーボールで攻める。
一瞬掠ったように見えたが、翼でかわされている。
大きな足の鋭い爪がすぐそこに迫ってきた。
羽ばたく度に吹き飛ばされそうな程の強い風が巻き上がる。
「まずい!」
もう本当にまずい。ただ、これなら接近戦が効く。
「スケール!」
スケールの短槍が一閃した。
ザクっとその鳥の頭を突き刺す。
「ギャアアア!」
痛みに悶えるように体を捻る鳥。
しかし、まだ体制は保っている。
「ルティア!」
次はルティアが短剣で腹の辺りを切る。
紫色の血……
こいつはモンスターだ。
バランスが崩れる。
「離れろ!」
スケールも刺していた槍を勢いよく引き抜き、走ってそのモンスターから離れる。
足の遅い私も必死にその場から離れた。
木々が潰されるメキメキという音が響く。地が揺れる。
「きゃあ!」
「リア!」
私は転んだリアを抱き上げて走った。
これはまずい。
メキメキ音が収まった後も土煙が辺りいっぱいに立ち込めた。
モンスターはチリとなって消えていた。
林の一部が崩壊した。また新たな依頼が発生しそうである。
とりあえず、獣とモンスターを一回ずつ討伐した。 ただ、まだ依頼は達成できていない。
「さて……次行こうか」
もう一度同じ場所を通るのは危険なため、リアの提案により、私達は別の入り口から中へ入ることにした…………
✳︎
依頼の帰り……私達はいつものように路地を歩いてギルドに向かっていた。
依頼の達成を報告し、報酬を受け取りに行く。
その時だった――
「きゃああああ!!」
なんだ!?悲鳴っ!?
私達は声のする方へと駆け寄った。
人だかり……その隙間から顔を出して状況を確認する。
そこには、ぐったりと街のど真ん中で倒れ込んだ男の人が居た。
「誰か…ヒーリング掛けられるやつはいないか!」
大声で、周りにいた人が助けを求める。
何があったのかは分からない。
だが、何かがおかしい。
男性の服の下……皮膚の一部が紫色に変色しているのだ。
今までにないほど、高揚感で心が満たされてゆくのを感じる。
今すぐにでも能力を発動したい……と体が私に訴えてくるような不思議な感覚。
一歩、二歩…と自然に足が前へと動いた。
私なら、出来るんだ。この状況を変えることが。
しかし……
「リトル、いくぞ」
スケールはそんな人だかりに背を向けて私の腕を強引に引っ張った。
リアはその様子を眺めるだけで何もしてこない。
リアには全部話している。だから慌てもしない。
「待って……治さなきゃ、このままじゃ……」
「ダメだっ!!我慢しろ!!このっ!」
「……っ!」
私の心臓が跳ねた。
スケールのいつもの優しさはどこにもない。
目も鋭く釣り上がっていて、青い目の眩しい光が突き刺さる。
「私なら、私達なら、出来るじゃないか………!!!」
「何を言っている!?見れば分かるだろう。約束を忘れたのか!!」
「!!」
冒険者になる前に交わした約束………それは、人前で治癒力を安易に放出しないこと。
でもよく考えてみれば、それは不可能に近い。
これまでも何回か治癒力を使ってきたわけだけれど、その全てを魔法と誤魔化してきた。
疑われはするけれど、そうしてきた。
だって、不可能だから。
『いつものように魔法だって言って乗り切ればいいじゃないか……!』
「っ………!!」
私の腕を掴む力が一瞬弱まった。
『でも、これだけの人の中で治癒力を放出するのは危険すぎる…それに、見た目ただの傷ではない。万が一のことが有れば……』
「…………研究員がいるかもしれない」
ルティアも小さく呟く。
怯えるように体を震わしている。
「そうだよ……リトル……二人に心配かけちゃダメだよ……?」
リアも耳元で小さく私に説得する。
スケールもルティアも体の奥でエネルギーをぎゅうぎゅうに押し込んでいる状態で、苦しいだろうに何も言わない。
そんなことよりも自分が研究員に捕まることに怯えている。
自分が…………
ああ、そうだよ。結局、自・分・が・なんだよな。
倒れ込む男性とスケールの目を交互に見る。
「………それでもやっぱり……ほっとけないよ」
「やめろ、やめてくれ……頼む。バレたら、俺もルティアも捕まってしまう。俺も、リトルも、ルティアも……みんな殺されるかもしれないんだぞ」
「うっ……うぅ………」
私は必死に我慢している。
その場から離れればその感覚も消える。
だが、私はどうしても離れられない。
人だかりも徐々に解消されてゆく。
諦めたように誰もがその場を去っていった。
その中には、涙を蓄えた人がたくさんいた。
パチパチ……と私の握っている拳から黄緑色の光が弾けるのが見えた。
「やめろ!!リトル!!!!」
後ろから私の体を抱え込んだ仲間の腕、スケールの喉の奥から絞り出した声を振り切り、私は男性に駆け寄った。
ぐったりと倒れ込んだ男性に向けて全力で我慢していた治癒力を解き放つ。
身体の中が空っぽになるぐらいの強いエネルギーが男性の変色した皮膚や傷を包み込む。
いつもなら二、三秒……のはずなのにやけに時間がかかる。それでも私は放出し続けた。
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