オタクに優しくないギャルが、学校だけじゃなくて家でも優しくない。なのに常に密着してくるんだが
泉田 悠莉
第1話 夜逃げオタクはギャルの家に拾われる
「……は?」
その一言が、これからの俺──
帰宅すると、家が……なかった。
いや、正確には、あったはずの家が空だった。
家具も、家電も、親の姿も、全てが“まるっと”消えていた。
冷蔵庫には、両親からの置き手紙だけ。
「ごめん、借金のことで色々あって……しばらく連絡はできません」
「悠斗、あとは頼んだ!」
……いやいやいや、頼むな。
俺はただの高校二年生。頼まれてもどうしようもない。
なに? 夜逃げ? そんなのフィクションの中だけにしてくれよ!
「うぅ……ひもじい……」
その晩、俺は公園のベンチで夜を明かした。
ラノベの主人公みたいに「異世界から美少女が降ってくる」や、「借金の肩代わりをしてくれるヒロイン登場」なんて奇跡は……なかった。
なんも無い。現実は冷たい。背中も寒い。
「イェア」
韻を踏んでも(?)なんも起きない。
だけど、奇跡の代わりにやってきたのは、保護者会でうちの両親と仲良さそうに話していたクラスメイトの母親だった。昔の同級生だとかなんとか? 興味無かったから、誰の母親かは知らない。
まぁ、なんにせよそのツテで俺の両親から「息子を頼む!」と連絡を貰ったらしい。
それが彼女──
なるほど、これがいわゆる女子大生に見えてもおかしくない母親ってやつか。本当に存在するんだな。
「うち、今は部屋も空いてるし……よかったら、しばらく来なさいな」
遥さんはそう言ってくれる。
「えっ、え、でも……」
本当は「ありがとございまーす!」とどけザしたいところだけど、一応礼儀として一度は躊躇する。
「いいのよ。あなたのママ、昔うちと仲良かったし」
「えっと、じゃあ……よろしくお願いします」
こんな感じで俺はもう公園のベンチと別れることになった。じゃあな、ベンチ。
で、あれよあれよという間に、俺の荷物(ビニール袋一つ)とともに移動させられた先は、豪華な一軒家だった。
玄関を開けて一歩入った瞬間、目にした大理石で俺は確信した。
――ここ、絶対住む世界が違うやつだ。
「はぁ!? なんであんたがうちにいんの!?」
そして現れたのは、
……あー、そうか、そうなのか。こいつの親だったのか。
朝比奈は俺のクラスのギャル。派手な金髪にピアス。スカート短め、リップ濃いめ。
教室ではいつもスマホ片手に、俺を見るたびに「キモ」と言う子だ。
「え、ちょ、ママ!? なんでこいつ拾ってきたの!? 捨て猫!?」
「灯。困ってる人には、手を差し伸べるの。昔のお母さんもそうだったでしょ?」
「だからってこのオタクはないでしょ!?」
……知ってたよ。歓迎されないことくらい。
でも、その夜から――俺とギャルの同居生活は始まった。いや、地獄が。
◇◇◇◇◇
それは風呂上がり、遥さんの作ってくれた具の入ってるラーメンを食べてから、リビングのソファーに座りスマホでアニメを見ていたときだった。
「は? アニメじゃん。キッショ。てかいつの間にそこにいたの」
朝比奈が俺のすぐ隣にドスンと座りながら、舌打ちしてきた。
「ご、ごめん……」
「てか、オタクってほんと気配ないよね。ホラーかよ」
「ええと……それは悪口?」
「褒めるわけないでしょ。声も小さいし、空気読まないし、目も死んでるし」
「んお……」
……これがこれから先の日常になるとしたら、即精神崩壊する自信がある。
ただ、今の状況を考えるとそうも言えない。なぜなら、その毒を吐きながらも朝比奈が俺との距離を一切取らなかったことだ。
距離を取らないというか距離がない。全くない。ゼロである。隙間なく俺にくっついているのだ。
「……え、あの。ちょっと、近いんだけど……?」
「うるさい、寒いの。暖房壊れてんの、知らないの?」
指摘するがすぐにキレられる。こんな立派な家で暖房が壊れてそのままのはずが無い。俺が前に住んでたボロアパートじゃあるまいし。
「え、でも……くっつく必要は……」
「はぁ? 寒いのに私のこと凍死させる気? 何様なの?」
「……」
もう訳が分からない。言ってることは冷たいけど、物理的距離はめちゃくちゃ近い。
今度は俺の肩に自分の頭をコテンと傾けて預けてきた。
「ほんっとマジで……オタクって使えない……」
「ご、ごめん……」
「……体温が高いのだけは自慢していいんじゃない? する相手もいないだろうけど」
……それ、褒められてる? バカにされてる?
ていうか、この状況はなんなんだ!?
学校でもツン。家でもツン。
なのになぜかぴったりくっついてくる。
何故だ?
それが、俺の心の中に浮かんだたった一つの疑問だった。
▼▼▼
久しぶりの投稿で緊張してます。このギャル可愛いなーって思ってくれたら、星くれると嬉しいです。
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