第9回カクヨムWeb小説コンテスト 大賞受賞作担当編集者インタビュー【現代ファンタジー部門】

 第9回カクヨムWeb小説コンテストにて現代ファンタジー部門大賞を受賞した『『無刀』のおっさん、実はラスダン攻略済み』が、2025年2月17日に書籍版が発売されました。

 今回は本作の担当編集者さんにインタビューを実施しました。本作の魅力や、書籍化にあたっての工夫など、編集者ならではの視点でお話していただきました。

第9回カクヨムWeb小説コンテスト 現代ファンタジー部門大賞
『無刀』のおっさん、実はラスダン攻略済み(末松 燈)

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──多くの応募作をお読みになる中で、本作に感じられた作品の特徴・オリジナリティについてお聞かせください。

 選評でも書かせていただきましたが、圧倒的に世界観にリアリティを感じたのが本作でした。現代ファンタジー作品の中でも「ダンジョン」を舞台としたものは本当にたくさんありましたが、「そのダンジョンが現代社会にどのような影響を及ぼしたか」というところまで面白く描いている部分が、非常に作品として魅力的だったように思います。

 主人公・藍川英二は高校時代に最難関ダンジョンをクリア、多くの人々が入れるように解放した「英雄」でしたが、ある思いからその過去を隠して今では零細企業のサラリーマンをしています。「最強」がいなくなったダンジョンは企業の利権が絡み、様々な輩が跋扈する場所となってしまった……というお話なのですが、「ダンジョンという場所が企業や政府の手によって変質した」という設定が面白いですよね。現実でも、自然に手を加えるのは人間なわけですから、現実の延長線上に「ダンジョン」を置いている発想がまさに「現代ファンタジー」だと感心した覚えがあります。

──作中の登場人物やストーリー展開について、編集者として気に入っているポイントを教えてください。

 特に英二周りはかなり硬派な設定がなされており、非常に読みごたえがあるストーリーだと思っていますが、その周囲を生きるキャラクターたちは良い意味でライトノベルらしく魅力的な個性があるのが、緊張を緩和させる意味でも、そして本作の一ファンとしても大好きな部分ですね。
 英二に教えを請い、ダンジョン配信に取り組む朝霧未衣はお嬢様学校に通う女子中学生なのですが、彼女はまさに「かっこいい知り合いのおじさんに懐いているかわいい少女」。そういった可愛い一面はもちろんですが、腐敗してしまったダンジョンの中で、当時の英二と同じようにあどけない冒険心をもってダンジョンに挑む、という「もう一人の主人公」でもある、という部分もまた、本作のもう一つの魅力と思ってもらえるのではと思っています。


 また、これは余談ですが、未衣のダンジョン配信を見ている彼女の学友のコメントは、みなお嬢様口調なんですよ(笑)。配信コメントで登場人物の凄さを表す描写はほか作品でもたくさんありますが、ただ「すごい」と示すためだけでなく、読者に面白いと思ってもらえるような設定がついているのがとても好きな部分ですね。一応、なんでお嬢様口調でコメントするのかというのも設定があるのですが……それは本編で確認してください!


──受賞作の書籍化にあたり、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

 今回イラストをご担当いただいた叶世べんち先生は、著者の末松先生が最初にイラスト希望としてお名前を挙げていただいた方だったのですが、本当に素晴らしいイラストの数々をくださった方でした。特に、最初におっさんである英二のキャラクターデザイン、そして本作のカバーイラストを見たときは思わず声が漏れました。


 そもそも、私が書籍化段階で考えていた方向性と、著者の末松先生がやりたいとおっしゃった方向性が最初から同じ方向を向いていた、というのは編集者としても喜ばしいことでしたね。当然、「書籍が売れること」を目的として私たちは全力を尽くしますが、それと同じくらい、「著者さんが一人で生み出したものを悔いのない一冊にしてあげたい」という思いもあります。そういう意味でも叶世さんのイラスト一枚一枚、著者さんと一緒に一ファンのように喜んで拝見しておりました。ぜひ読者の皆さまにも、最後の挿絵一枚まで楽しんで欲しいですね。


──書籍版の見どころや、Web版との違いについて教えてください。

 本作はWeb版からかなりの量の加筆を入れてくださっています。特にいまから書籍版を読んでくださる方には「伏線」を気にして読んでいただきたいですね。
 大前提として、非常に完成度が高く、そして大賞に推すほど面白かった、ある意味「既に出来上がっている作品」が本作ですから、そこに編集者として出来ることは大きな改稿を提案することではなく、「編集者視点で好きだった展開やシーンをとにかく伝える」ことかなと思っていました。
 その部分を共有し、「よりそのシーンを際立たせるためにはこういうセリフを入れて伏線にするのはどうか」といったことを中心に相談しながら加筆していただいた部分がたくさんございます。
 おかげさまで、Webからの読者様にも、「一文も見逃せない」ものにして出版できたのではないかと思います。ぜひ楽しみにしていただければ幸いです。


──今後カクヨムコンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。

 Web小説の書籍化は、「著者さんの個性や熱をどれだけ具現化できるか」がとても大事なのではないかと思っています。そのためには、ランキングやポイントで確実に受ける要素だけではなく、「自分が執筆することで、どれだけほかの作品と違うように見せられるか」といった部分を意識して書いてみてください。その熱量を、編集者は全力で世に出すお手伝いをさせていただきます。
 あなたの渾身の一作が掲載されるのを、毎日楽しみにしております。

──ありがとうございました。



第9回カクヨムWeb小説コンテスト現代ファンタジー部門大賞『『無刀』のおっさん、実はラスダン攻略済み』は2025年2月17日より発売中です!

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